猫
ペットとしてわんちゃんと同じ位多いのはねこちゃんではないでしょうか。先生の家にも猫がいます。子供のころは猫を飼育した事が無く猫のことをあまり知らなかったのですが、自分で飼育しだしてからとても好きになりました。ちょっとマイペースで気ままな性格な子が多いかと思いますが、いったんパートナーになると切っても切り離せない存在になります。猫は昔から家の悪い邪気を吸いとる力があると言われますが、まさにそんな気がする動物で毎日とても癒されます。
ペットの中ではかなり手がかからない方の動物だとおもいますが、それでも勉強して出来ればやってあげた方がいいことが沢山あります。
混合ワクチン
現代の日本において人の場合は猛威をふるう伝染病なんてインフルエンザ位しか無いかもしれません。しかし、ねこちゃんの世界ではまだまだ伝染病がかなり蔓延しています。かかってしまうと治すことのできない病気もまだまだあります。ワクチンには3種や5種といったものがあります。一般的に室内だけで生活している子は3種を打ちます。外に出て地域猫(のらねこ)と接触する機会がある子は5種を打ちます。
うちの子は外に出ないからワクチンは必要ないわ、と思われている方も多いと思われますがそれは危険です。3種ワクチンは、ヘルペスウイルス、カリシウイルス、パルボウイルスという病原体が原因の病気を予防する事ができます。これら3種の病原体は環境中で生存する能力に長けています。なかでもパルボウイルスはひどい腸炎が起こり嘔吐と下痢を症状とする病気ですが、便の中に出たウイルスが乾燥状態でも5か月程生き残るのです。つまり、土に混ざったウイルスを飼い主が靴の裏につけて家に帰り、ねこちゃんがその靴をおもちゃにして遊ぶだけで感染する可能性があるのです。パルボウイルスは非常に伝染力が強く、一説には人の親指程度の下痢便で地球上のすべての猫が感染させられる程の伝染力があるとも言われています。
一方、5種に入っている猫白血病ウイルスは病気の子と直接濃厚な接触がなければうつることはありません。猫白血病は地域猫(野良ちゃん)の10%程度が感染しているとも言われています。外に行く事が多い子はこの病気も予防した方が良いです。
寄生虫の検査
これは絶対しておきたいものです。なぜかというと人にうつる寄生虫がいる場合があるからです。特に注意しなければならないのが猫回虫です。寄生虫というのは基本的には寄生する動物が決まっており、その動物の体内では特に悪さはせず共存しています。しかし、猫回虫が人の体内に入るとねこちゃんと免疫システムが異なる為なのか腸を食い破って全身をはいずりまわります。運が悪いと目の中や脳の中にはいってしまい取り返しがつかないことが起こります。
どのようにうつるかというと、ねこちゃんの腸の中の回虫が卵を産んで便と一緒に卵が外に出てきます。卵は人の目には見えない位小さいです。その卵を人が誤って飲んでしまうとそこで感染が成立します。ただし、成人の場合には一般的にはかなり多量に卵を取りこまなければ感染することはありません。子供の場合は幼少であればある程感染するリスクが高まるので注意が必要です。最近、公園の砂場にネットがかぶせてあるのは地域猫(のらねこ)が糞をしないようにするためになされています。
去勢手術・避妊手術
わんちゃんの場合はどちらかというと将来の病気の予防の為に行うことが多いのですが、ねこちゃんの場合はやらざるを得ない状況が生後半年くらいで来て手術をされるケースが多いです。そのやらざるを得ない状況とは、男の子はマーキング、女の子は発情による夜鳴きです。マーキングは自己主張の激しい子だと部屋中に尿をかけまくります。女の子の発情鳴きは近所迷惑になるくらい大きい声の子もいます。だいたい、生後半年くらいでこういった行為が見られる事が多いです。
マーキングははじめは本能で行っているだけですが、しばらく放置するとやがて習慣になってしまい去勢手術をしてもずっと止めなくなってしまうケースも多いです。ですので、マーキングをしだしたらなるべく早く去勢手術をしましょう。理想的には性成熟がある程度終わる6か月齢前後にする事が良いです。男の子の場合、ペニスは精巣からの男性ホルモンによって大きく成長します。あまりにはやく精巣を取ってしまうとペニスが小さいままになってしまうことがあり、その結果尿結石が詰まりやすくなります。
女の子の発情は野生の状態だと春と秋の年2回のみです。しかし、室内でいつもお部屋が明るく美味しい食事が沢山ある状況では最短で3週間ごとに発情が来ます。女の子の場合は生後6カ月前後であれば手術可能です。
フィラリア予防
フィラリアというと大体の方がわんちゃんの病気じゃないの?と思われると思います。ですが、実際は猫ちゃんにもフィラリアは感染します。ねこちゃんがフィラリアに感染しても生前にフィラリア感染の有無を診断する確実な方法が無い為、どの程度フィラリアが猫ちゃんに感染しているかわからなかったのです。しかし、最近段々と日本中から猫ちゃんのフィラリア感染の症例報告が増えてきて、私たち獣医師が想像していたよりずっと多く猫ちゃんもフィラリアによって苦しめられていることが分かってきたのです。
わんちゃんの場合はフィラリアは心臓に寄生するので心不全に似た症状が出ます。しかし、ねこちゃんの場合はフィラリアは肺に感染しそこで炎症を起こさせるので肺炎の症状を起こさせます。ねこちゃんは体の割には肺が小さい動物です。ですので、肺炎が起こってしまうとすぐに呼吸困難になりすぐに治療が出来なければ死に至ることもあります。
やってあげたいことはわんちゃんと同じです。1か月に1回フィラリアの駆除剤を使うことで病気になることを予防できます。ねこちゃんの場合、口からの投与が難しい子が多いと思いますが、首に液をたらすだけで投与できるタイプのものがあります。東海地方ではまだまだ猫ちゃんのフィラリア症に対する知識がひろまっておらずフィラリア予防をされているのはほんの一握りの方だけです。しかし、九州地方では知識がだいぶひろまっており40%程度の猫ちゃんがすでにフィラリア予防をされているそうです。
ノミ予防
外にいく猫ちゃんには絶対してあげたいです。ノミは探して見つからなくても何匹か寄生している場合があります。ノミは非常に体がうすっぺらいので私たちが思っているよりもかなり素早く毛の中を移動します。ですので、少数しか感染していないときは私たち獣医師でも見つけるのは困難です。いるいないに関わらず定期的に駆除剤をつけることがベストです。ノミだけを駆除する薬のほか、フィラリアも同時に1本で駆除できる薬もありますのでご相談ください。
また、ノミはねこちゃんから人へバルトネラという菌(猫引っ掻き病)や最近問題になっているSFTSという致死率の高い病気ををうつすこともありますのでその予防にもなります。特に外に行く子は可能な限り予防した方が安全です。
猫エイズ・猫白血病の検査
すでにおうちに先住猫ちゃんがおり、新しく外で保護した猫ちゃんを迎えようと思われている場合にぜひ行った方がいい検査です。猫のエイズ、白血病はレトロウイルスというウイルスに感染する事でかかります。ちょっとやっかいなのがすぐに症状が出ないことが多いということです。つまり保護した時にとても元気にしていても実は感染しており、知らず知らずのうちにウイルスを他の子にうつしてしまうかもしれないということです。いったん感染してしまうと確実な治療はほとんどありません。(何も手段が無いわけではありません。)
検査は少量採血させて頂き15分程度で結果が出ます。
フードの選択
意外とこれが一番大事かもしれません。わんちゃんのフードはどれもかなり良質なものばかりになったので動物病院があれこれいう必要がなくなってきましたが、ねこちゃんのフードはまだ粗悪品が多いです。特に問題になるのがフード内の悪い成分から膀胱結石が出来る場合がある事です。膀胱結石ができても女の子の場合は命に関わることは少ないですが、男の子の場合尿道が狭くて長いので小さな結石でも詰まりやすく尿が出せなくなります。尿が出せないままで放置すると毒素が体の中にたまり命に関わってきます。
ねこちゃんのフードは高品質、中品質、低品質といった感じに3段階にランクが分かれています。高品質になるほど結石ができにくい様になっています。低品質のものでも結石予防配慮等と書いてある場合がありますが気休め程度と考えてください。ランクは値段に比例しています。それは材料に肉がどれだけ多く使われているかで値段が変わってきます(肉は材料費として高価であるため)。ペットショップに足を運んでもらうと、価格の明らかな違いからどれがどのランクのフードかわかると思います。なるべく中級以上のフードを与えましょう。それでも結石が出来やすい子(水の飲む量が少ない子)は出来ますので可能な限り良い食事を与えましょう。結石の事だけでなく毛づやなども全然変わってきますよ。
ねこちゃんはわんちゃんに比べしなきゃならないことが殆ど無いと思われがちですが、実際はやってあげた方がいい事はたくさんあります。全部やってあげましょうとは言いませんがなるべく一つでも多くやってあげた方がいいことばかりです。ご自身、ご家族と相談して可能な限りやってあげられるとねこちゃんとのより良い関係が築ける事でしょう。
<猫ちゃん御来院の際の注意点>
ねこちゃんを連れてこられる際は必ず蓋のあるキャリーケースで御来院ください。猫ちゃんは環境の変化にとても臆病です。慣れていない場所だとちょっとした車の音などだけでもパニックにおちいり逃亡する場合があります。キャリーケースがご用意できない方は洗濯ネットに入ってもらい御来院ください。キャリーケースよりも洗濯ネットのほうが落ち着く子もいます。